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「歌は世に連れ」

 先週末の朝日新聞が別刷り紙面の「be」で五輪真弓の「恋人よ」を取り上げていた。「恋人よそばにいて」という哀切な呼び掛けと「砂利道を駆け足でマラソン人(びと)が行き過ぎる」という歌詞が印象深い1980年のヒット曲である。

 ▼その年の12月に売れた上位20曲から読者が選んだ好きな曲、思い出の曲の特集で1位になっていた。2位は、津軽三味線を弾きながら熱唱する松村和子の「帰ってこいよ」だった。

 ▼二つの歌には思い出がある。「恋人よ」は、若くして亡くなった大学時代の友人が飲むたびに歌っていた。演歌のような歌唱法に独特の味があった。僕の好きな歌でもあり、この曲を聴くたびに故人を思い出す。

 ▼「帰ってこいよ」の曲が流れると、条件反射のように大阪府警の幹部官舎が思い浮かぶ。日曜の昼下がり、2階の窓を開け放して取材相手と碁を打っていたら、近所の祭りで中学生が熱唱しているのが聞こえてきた。「うまいもんだね」と感嘆する部長の言葉と顔をよく覚えている。

 ▼この2曲に限らない。歌は時代とともにある。聴くのは好きだが歌うのは苦手な僕でも、その歌詞にほれ、歌い手に共感すると、歌を通して時代の空気を吸っている気になれる。

 ▼あれから36年。今も年齢や性別を超えて、みんなが口にできる歌はあるのか。人々の格差が広がり、孤立が進んで、時代を象徴する歌が生まれにくくなっているとすれば、寂しい話である。 (石)



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