AGARAKiiLifeみかんKiiSearch

「藤沢周平没後20年」

 三度の食事は欠かしても、寝る前の読書は欠かしたことがない。どんなに眠くても、たとえ3ページでも読まないと眠れない。気持ちがささくれだっていても、手近にある本を広げるだけで落ち着く。

 ▼どんな本にも手を出す乱読家だが、8月15日と1月25、26日に読み返す本だけは決めている。8月は山田風太郎の「戦中派不戦日記」、1月の両日は藤沢周平の作品から選ぶ1冊である。

 ▼「不戦日記」は、日本が戦争に敗れた1945年の日常を、当時23歳の医学生だった風太郎氏が克明に記した日記である。あの戦争と銃後の暮らし、そして当時の青年の心象風景を心に刻むために、ある種の教典のような気持ちで読んでいる。

 ▼1月26日は藤沢周平の命日であり、今年が没後20年になる。氏の作品は、夜も昼もない記者生活の中でも、時間を削って読み続けた。「用心棒日月抄」「隠し剣孤影抄」「三屋清左衛門残日録」……。少年剣士の成長物語でもある「蝉しぐれ」は、内に屈託を抱えている大学生に、機会あるごとに贈った。合計10冊はくだらない。

 ▼それらの愛読書の中から、今年は短編集「玄鳥」を選んだ。自然描写の美しさ、男と女の抑制された慕情の表現が際立っているからである。とりわけ表題作「玄鳥」と、それに続く「三月の鮠」は、読むたびに心の中を爽やかな風が吹き抜けていく気がする。

 ▼読書の習慣が身に付いていてよかった、と思えるひとときである。 (石)



更新)