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「信濃路」

 晩秋の信濃路を車で走った。信州はさすが山の国。全山これ紅葉で、秋を肌で感じる所が多い。霧ケ峰高原が特に良かった。

 ▼この頂上からは、前方に南アルプスと中央アルプスの連山が一望できる。目を転じれば、遠景に冠雪した富士山、近景に八ヶ岳連峰が展開する。明治の文豪・徳冨蘆花は『自然と人生』で「富士、雪を帯ぶ。さやかに雪を帯ぶ。東海の景は富士によりて生き、富士は雪によりて生く」と書いた。それが今、眼前にあるのだ。

 ▼中国では古来、四季を色と重ねて青春、朱夏、白秋、玄冬と呼んだ。色との結び付きに特別な意味はなかったが、白秋は高い天に浮かぶ白雲のイメージを呼ぶ。それも今眼前に展開する。

 ▼秋は人々を思索に駆り立てる。帰途は降りしきる落ち葉に、晩年を迎えた自分の人生を重ね合わせたりもした。これが作家ともなると、その構想力は天空を縦横に飛翔する。最近読んだ水上勉の短編『重い枯れ葉』はこうだ。

 ▼主人公は自宅の庭の枯れ葉をかき集め「その命終えし枯れ葉の軽きこと」と、素直な一句を詠む。その後たまたま送られてきた句集に「散り敷きて庭の枯れ葉の重きこと」という句を見つける。

 ▼同じ枯れ葉を正反対に重いと感じる相手に興味を持ち、調べ始めると、埋もれていた殺人事件が表に出る、という展開だ。後半は作家の創作であり、秋の小景に触発されたその想像力には、凡人はただ脱帽するしかない。 (倫)



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