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「高齢の厳しさ」

 最近、物忘れがひどい。すぐけつまずく。「名馬も老いれば駄馬に劣る」というが、私は生来の駄馬だから、高齢の厳しさはひとしおだ。

 ▼しかしさすが漢字の国・中国。老馬を激励する言葉も用意している。井波律子さんの『中国名言集』には「老いた馬は馬小屋に伏しても、志は千里にあり」とある。「晩年になっても高い志を抱き続けるのが真の勇者」という意味だ。気宇壮大で、高齢者はかくありたい。でも、これも三国志の英雄・曹操(そうそう)の言葉だから、やはり駄馬向きではないかもしれない。

 ▼では、駄馬は老いにどう向き合うか。私は「ひたすら歩く」ことに、単純な解答を見つけている。場所は川べりと林間だ。川は悠久の時の流れを実感させてくれ、木々は四季の移ろいが明快だ。

 ▼自然の中での思索に向いた単独歩行がよい。一人で自由奔放に思考をめぐらすのは、まさに至福の時だ。それを邪魔されないよう、よほどの顔見知りででもない限り、出会う他人には目をそらすか無視を決め込む。

 ▼これで都会の煩わしさからは少し解放されるものの、人情が温かかった地方育ちの身には、少し寂しい。満員電車の中で小説の筋を考えることが好きだった司馬遼太郎は、雑踏や満員の中でこそ個人の自由な思考が生まれる、といっていた。いかにも人間臭い大作を書き続けた作家らしい。

 ▼老いた駄馬の私には「天高く馬肥える」とはいかないのが悩みだ。(倫)


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