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「ノーベル文学賞」

 カズオ・イシグロ氏へのノーベル文学賞授賞式が10日、現地で行われた。日本人が期待する村上春樹氏は今年も外れたが、英国籍とはいえ日本生まれの氏の受賞を喜びたい。

 ▼イシグロ氏の日本語訳をほとんど手掛けた土屋政男さんと私は、所属する英語研究会の同僚で親しくしている。受賞の余波で訳者も突然脚光を浴びた。日本語訳が120万部も増刷されたというから賞の効果はすごい。

 ▼川端康成がノーベル賞を受賞した時は、英訳者エドワード・サイデンステッカーのおかげだといわれた。世界のローカル語である日本語の微妙さや登場人物の心理のあやを、欧米人にも分かるように見事に訳出した。今度は英語から日本語へと逆のケースだが、イシグロ氏のルーツである日本の記憶も混じる物語のニュアンスを、土屋さんは完璧に和訳した。こういう訳者たちの努力で、世界の言語の壁が消えていくのはうれしい。

 ▼私は『日の名残り』という作品が特に好きだ。英国の上流階級に献身的に仕えた執事が古き良き時代を回想する物語だ。旧主が没落し、金持ちの米国人に屋敷とともに自分も売り渡された。

 ▼沈みゆく海岸の夕日を眺めながら「一日のうちで夕日が一番美しい」という主人公のセリフは感動的であり、没落する老大国の支配階級への鎮魂歌だ。

 ▼「人生は晩年こそ一番光り輝ける」という著者の、世の高齢者に対する励ましのメッセージでもあろう。 (倫)



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