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「年の暮れ」

 もう歳末。今年も多くの友人を失った。私の年齢になると、避けがたい宿命だ。

 ▼晩唐の詩人、于武陵(うぶりょう)は「花発(ひら)けば風雨多く、人生別離足(おお)し」と歌った。井伏鱒二はこれを「花に嵐の例えもあるぞ。サヨナラだけが人生だ」と訳した。不朽の名訳だ。

 ▼旧制田辺中学時代に私にこの詩を教えてくれたのは、同級の西出敏夫君だった。好きな作家・太宰治が酔うといつも口にしたという。卒業後、彼は地元で教職に就いたが、数年前、彼がこの世を去るまで、友情は生涯続いた。

 ▼前記の五言絶句には前半がある。井伏訳では「この杯を受けておくれ。どうぞ並々つがせておくれ」とあり、友人と今生の別れを告げる。私も離れた友の訃報に、今年もこの詩とともに孤独の杯を何回上げたことか。

 ▼もう一度中国の古い詩を。「胡馬(こば)は北風に依(よ)り、越鳥は南枝に巣くう」。胡馬は北方の砂漠地帯で生まれた馬で、越鳥は南の越の国で生を受けた鳥だ。馬や鳥でさえ折に触れ故郷を懐かしむ。いわんや人間ならなおさら、という意味になる。

 ▼年末、都市から故郷への帰省ラッシュが続く。望郷の思いに駆られる人たちで空港も駅も一番ごった返す時期である。

 ▼帰る人たちと迎える人たちの間に、各人各様のドラマがある。主役が不帰の客というケースもあろう。それぞれが「来年は」という思いをつなぎ、今年も暮れようとしている。(倫)

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