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「情の通う世界」

 新聞を読んでいると、時には心がほっこりし、思わず頬が緩んでくる記事に出合える。先日の本紙などにあった与謝蕪村(1716〜83)の記事もそうだった。

 ▼そこでは俳人であり、画家としても知られる蕪村の10句を書き連ねた軸が見つかったことを伝えていた。それだけならよくある話。しかし記事は、その句は周囲を和まそうとしてわざと下手な字で下手に詠んだこと、作者名の「雛糸」はなじみの芸者「小ひな」と「小糸」から1文字ずつ借りたことなどを、同じ軸に貼ってあった弟子の呉春(1752〜1811)の絵と文から説明していた。

 ▼蕪村の死後、遺児の嫁入り支度のために弟子は師の稿本を分割して売り払ったが、その際、呉春はこの説明書きを付け「雛糸」が蕪村であると証明していたともいう。

 ▼明治以降、正岡子規や萩原朔太郎が「俳諧中興の祖」「郷愁の詩人」と高く評価した蕪村の、そういうしゃれっ気を知れたことがうれしい。芸者と俳人の交情、師匠を思って丁寧に画文を書いた呉春の心根にも打たれる。身分や年齢を超えて遊び心を通わせ、雰囲気を和ませていく場の存在とともに、現代社会が忘れ去った情の通う世界が1幅の軸から伝わってくる。

 ▼2018年。蕪村も呉春も遠くなった。しかし、年齢や立場を超えて情を通わせ、人を慈しむ目を持つ人は少なくない。新しい年も、そういう人々に寄り添った記事やコラムを心掛けたい。 (石)



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