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「大辺路の物語」

 田辺市から那智勝浦町に至る海沿いの熊野古道・大辺路の9カ所が世界遺産に追加登録されて10月で2年になる▼20年前、大辺路を那智から白浜町まで歩いた。当時は調査が不十分で、富田坂や仏坂、長井坂を除けば、ほとんどが国道42号などの舗装路だった。後に民間団体「熊野古道大辺路刈り開き隊」が土に埋もれたり木が生い茂ったりして歩けなくなっていた古道を調査・発掘し、追加登録にこぎ着けた▼当時は歩けなかった追加登録区間を訪ねた。串本町の富山平見は峠の切り通しに木の根が縦横にはい、力強い造形美を見せる。清水峠のすぐ近くには古座川弧状岩脈の一部が露出し、クジラの背のような巨岩の上に立つことができる。那智の駿田峠には、ここで命を落としたという姫を弔う加寿地蔵が祭られている▼大辺路にはこういった見どころがあるが、熊野九十九王子をたどる中辺路に比べれば、歩く人は少ない。昔ながらの道が一部にしか残されていないことに加えて、大辺路ならではの物語が十分に伝わってこないのが理由ではないか▼江戸時代の絵師長沢芦雪(1754〜99)は京都から串本へおもむき、紀南の寺院に多くの障壁画を残した。潮風を感じながら歩く海岸の風景に、文人の創作欲が刺激されたのだろう。芸術や景観、暮らしに根差した文化など、大辺路の物語を一つ一つ紡いでいくことが、いにしえの道へのいざないになるのではないか。(長)


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