AGARAKiiLifeみかんKiiSearch

「郷土の生き字引」

 博覧強記という言葉がある。「広辞苑」では「ひろく古今・東西の書物を見て、物事をよく覚えていること」と説明している。先日、96歳で亡くなられた杉中浩一郎氏を形容するのにぴったりの言葉である▼紀南の歴史や民俗に関して疑問があれば、先生に連絡を取る。すると即座に疑問が解消する。時には自宅を訪ねて話を聞かせていただくこともあったが、そんなときには必要な文献を書架から取り出し、それを手に丁寧に教えてくださった▼現場に連れ出して説明されることもあった。数年前、紀州藩の高官で陸奥宗光の父でもある伊達千広の話を聴いた時もそうだった。千広の5代目の子孫である朝日新聞の元同僚が先祖の田辺幽閉時代のことを知りたいと訪ねてきたと言うと、即座に腰を上げて顕彰碑のある戎神社や幽閉先の推定地を巡り、安政大地震の際、千広が避難した闘鶏神社の森まで案内してくださった▼書斎だけの学者ではなかった。現場を踏み、碑に刻まれた文字や民家に伝わる記録を精査し、そこから紀南の郷土史、民俗史に数々の業績を積み上げられた。その一端は『南紀熊野の諸相 古道・民俗・文化』(清文堂)や『南紀・史的雑筆』(私家版)などの著書となって、図書館にも収められている▼人の寿命には限りがあるが、研究成果は著書として残されている。それが半永久的に後進への助けとなる。先生とのつきあいはまだまだ続きそうだ。(石)


更新)