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(13)旅の間のとき

 思い切り強いコーヒーの香りが部屋に充満している。雑誌の依頼で、明日の始発でスイスに絵を描きに行く。

 仕事で旅に出る前の、夜の時間が好きだ。鉛筆を研ぎ、絵の具をチェックし、動きやすいよう全て整え朝を待つ。ほど良い緊張と、旅の始まりの期待。しばし過ぎ行く時に身を委ねる。

 パリに来て半年、自分が描きたい絵とは何か、そもそもどうして絵を描くのか、考えるうちに月日は慌ただしく過ぎていった。

 私はパリくんだりまで、わざわざ人生に迷いに来たのだろう。立ち止まり見つめる時間を、パリは私にくれた。いま、気持ちのこもった絵が描きたいと、本当に思う。再び旅に出るように、私もここからどこかに向かおうとしている。その背中を押してくれるのもまた、パリなのだと思う。

 セーヌの水面は今日も冬の光を映し、つかの間の夢のように移ろってゆく。


【静かな夜の時間、猫は何食わぬ顔でくつろいでいる】

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