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《1》冬の旅

 早朝のパリ・リヨン駅は長旅を前にした人々で活気づいていた。

 スイス行きの高速列車、TGVの乗り場は、駅舎裏手の屋外にある。その存在を知らず、少々まごついた私は足早にホームを車両まで進んだ。

 昨夜から降り続いた雨もやみ、しっとりとぬれたホームはオレンジ色の信号を映している。

 列車に乗り込む、その傍らには、ゆったりと語らう男と女の姿。どうやら発車時刻が遅れているらしい。私は自分の席に腰を落ち着け、窓越しに先ほどの男女の姿を何げなく眺めた。

 ベージュのトレンチコートがよく似合う男は、刻まれたしわから、かなりの歳だとわかる。扉側に立つ女は、整えられた髪に白いものが混ざっている。

 不意に音も無く列車は滑り出した。女の姿を見届けたばこを取り出す、一瞬の男の表情を車窓に映して。風景は加速してゆく。彼女は見なかったであろう男の表情が、残像のようにいつまでも私の心に残った。

 絵の具をかばんに詰めて、見知らぬ国へ一人、旅に出る。その土地に生きる人の気配がにじみ出るような、そんな絵が描けたら。

 ようやく白み始めた冬の朝、列車はスイス国境へと南下してゆく。



【パリ、セーヌ川沿いの散歩道】

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