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《4》地中海へ

 「モンペリエ行きの列車はどこですか!」。駅員が指さす先には遠ざかってゆくTGV(高速鉄道)の後ろ姿。

 大寝坊し5分で家を飛び出し走った朝。パリから地中海沿いにスペインへ。きままな一人旅の幕開けはこんな調子だった。次発の列車でも、夕方のスペイン鉄道へ乗り継げる。今日の夜にはバルセロナで乾杯だ。

 途中、寄ってみたい町があった。南仏の町セット。丘から海を望む一枚の写真に私はひかれていた。セット駅、寂れた並木道を行くとほどなく運河に出た。晴れた町を濃い霧が包み白昼夢のよう。

 再び駅に戻ると私の待つ電車だけが掲示板にない。駅員「その電車は先週からキャンセルです。今夜はここに泊まるか、隣町まで行くかですね」。今朝このチケットを私に売ったパリ駅員の顔が浮かぶ。

 駅前ホテルの部屋に荷物を降ろし、3分ベッドに倒れ込み、気を取り直し町へ。先ほどの運河から続く急な坂を上る。天へと延びるその坂は、つづら折りの石段となり、ぐんぐん高度を上げてゆく。小高い丘の頂、不意に大海原が開けた。

 ここは地中海と大きな湖の間にある町なのだ。霧が固まりとなり町を覆い、湖から海へと流れてゆく。

 町に下り、私は運河沿いのカフェテラスに腰を下ろした。この町を出られない夜。霧はますます濃く、宵の口のネオンを包む。私はこの町を気に入り始めていた。


【南仏の町セットの路地】

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