AGARAKiiLifeみかんKiiSearch

《5》タルゴに揺られ

 ガゴン。角張った鉄の固まりのような車体が、おもむろにホームに滑り込み、いよいよ国境を越えるのだ、と実感する。スペイン鉄道の列車「タルゴ」。

 度重なるストの後、南仏セットを抜け出せたのは翌夕方のことだった。列車は大きく蛇行しながら、地中海沿いの集落を幾つも通過してゆく。

 穏やかな夕暮れ時、往年の食堂車は車両全体が一筋のバーカウンターになっていて、ムッシュ(接客係)の背中越しに暮れなずむ地中海を望むことができる。

 20時、バルセロナ、フランサ駅。長いタクシーの列を横目にメトロの入り口を探す。スペインの地下鉄は意外にも近代的。大都会特有の安心感に紛れながら宿へと向かう。

 パリから唯一予約してきたホテルは、ユースホステルに毛が生えた程度の木賃宿だった。禁欲的なその空間に腰を下ろす気にもなれず、再び町へ。明日の切符を買いに国内線駅へ向かう。そこにバルセロナ在住の友人から電話が入った。

 この土地で絵を描いている少し年下の彼女と、旧市街の入り口で待ち合わせ。地元客でにぎわうバール(大衆飲み屋)で、本場の生ハムと、店特製の発泡ワインを酌み交わす。社会に価値観を委ねない、日本人離れした彼女の自由な生き方にまぶしく目を細めながら、絵画談義の夜は更けていった。

 足早に二人帰路につく深夜の旧市街、趣ある街灯が石造りの路地を夢のように照らす。

 私は明日もこの町に留まろうか、迷い始めていた。



【南仏最後の停車駅「ペルピニョン」。列車はスペインへと南下してゆく】

更新)