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《13》西の果てへ

 トートバッグ一つ提げ、各駅停車に乗る。4月下旬、海岸線を走る車窓には、光があふれそうだ。ポルトガルの首都リスボンから40分の街、カスカイスで路面バスに乗り継ぎさらに西へ。ユーラシア大陸最西端、ロカ岬を目指す。

 民家の軒先をかすめ、峠を越え、たどり着いたバス停からは岬への小道が続いている。黄色い花が咲き乱れる草原に人影はない。大陸の果ての風景とは、その先の海とは、どんなものだろう。はやる気持ちを抑えながら、草原の小道を踏みしめる。

 灯台の下、積まれた石垣のその向こうには、やはり、何もなかった。果てしなく深い色をたたえた大海原が、ただ広がるだけ。

 岬には時折大型バスが横付けされ、聞き慣れた母国語がにぎやかに響きわたりまた、去っていった。ロカ岬巡りは日本人に人気のツアーのようだ。かつて、この海より出航しはるか日本の地を踏んだ人がいる。そんな事実が、私を含め日本人の心をくすぶるのだろう。

 ポルトガルの郵便ポストはフランスのそれと違い、赤色をしている。カフェのガラスケースに並ぶお菓子はどれも、古き良き故郷のもののよう。異国情緒たっぷりのこの国に、永い時間と距離を結ぶ証しを探してしまう。

 半島を一巡りしてリスボンに戻り、その足で空港まで。噴火の影響で閉鎖中の空の便も今夜から復旧、明日のパリ便も就航すると聞き、一安心。宿への帰り道、不意に対岸の町まで船に揺られてみたくなる。夜の巡航船の船室には、街で仕事を終えた会社員や学生が、言葉もなく日常を漂わせている。 

 降り立った波止場で折り返しの船を待つ。対岸に揺れるリスボンの街の明かりが、足元の波間までつながっている。この町を去る最後の夜。旅の終わりの空気は、いつも透明に揺れるもの。



【最果ての地で描いたのは、やはり海だった 】

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