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《14》パリに来た理由

 はじめてパリの地を踏んだのは8年前のことだった。旅に出る前は、ガイドブックを持つ手も震えていた、緊張の海外一人旅。イタリア南部・シチリア島から地中海沿いにパリまで。電車に揺られ立ち寄った町はどこも美しく、再び絵を描きに訪れたいと思わせる場所ばかりだった。

 その中で、パリだけが少し違っていた。旅の終着地、パリ・リヨン駅に初めて降り立ったその時から、街の空気が体を自然に包むような感覚があった。「ああ、この町に住むんだな」私はいつしかそう、街から知らされたような気持ちになっていた。

 それから5年の歳月を経て、私はようやくパリ行きの片道切符を手にすることとなる。1年の期限付きのパリ滞在は、次第に減ってゆく残りの日々を思い、時が過ぎゆくのを恨めしく思う日々ではあったけれど、それでも私はその1年を「長かった」と感じる。

 夏は22時すぎまで明るい夜のカフェを楽しみ、冬は一体どこまで寒くなってゆくのかも分からない、毎日が発見の連続の1年。子どものころは1年がもっと長く思えた、あの時間軸に戻ったようだった。

 気品ある白銀の屋根に、レンガ色の煙突をリズミカルに乗せて連なるパリのアパルトマン、エッフェル塔、乱暴なメトロの運転、アラブ人雑貨屋、黒人移民街、あふれる世界一流の美、誇り高きパリ人、セーヌの流れ。それらすべてを一つ一つ知って、暮らしたパリをまるで新しいふるさとのように感じる。半面、1年ではパリ社会に到底入り込むことはできなかった私にとって、パリは、憧れの地であり続けた。

 パリの暮らしの中で旅したフランスの町について、次から書いてみたいと思う。



【パリで唯一地上を走るメトロ6号線が渡る、ビル・アケム橋より】

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