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《15》北フランスへ

 編集部からの依頼は、いつも突然メールの受信箱に舞い込んだ。飛行機の機内誌の原画。閉め切り日までに旅をして、絵を描き、日本まで届ける。

 この瞬間より、刻々と音を立てて時間が過ぎ始める。私は反射的に週間天気予報に目を通し、スーツケースに荷物を詰めながら、どたばたとホテルを予約する。

 7月。海辺の町ドーヴィルはパリ、サン・ラザール駅から高速鉄道で約1時間40分、イギリス海峡に面したノルマンディー地方の高級避暑地で、映画「男と女」の舞台としても有名な町。日本をたつ前その映画を繰り返し見て憧れを募らせていた私は、思わぬことでドーヴィル行きの電車に揺られている身の幸運を感じつつ、緊張に包まれていた。

 駅より少し歩いた通りにあるホテルに荷物を落ち着け、町へ。できるだけ心を真っ白な状態にして、ふわふわと見知らぬ町を歩く。ほどなく海岸に出た。

 夏のバカンスのビーチは、映画で見慣れた人けのない冬の様子とは一変し、にぎやかだった。色とりどりのパラソルが等間隔に並べられ、パラソルに結んだひもは、解くと天蓋(てんがい)となってプライベートな空間を作り出す。カップル、家族連れ、一人読書する人、思い思いの小空間が海に向かって間口を広げている。海を背に点在するそれらの立体物はまるでアート作品のよう。そんな造形群が延々と広大なビーチに広がっている。

 木製の歩道を音をたてながら端から端まで2往復、一番絵になるパラソルの配置を選び出す。夏の北フランスは夜こそ涼しいものの、日中の日差しは日本の真夏となんら変わらない。真夏の濃い影が白い砂浜に色彩豊かなアクセントを加え、新しい構図を生み出している。たった今にしか出合えない風景を前に、私は一息に筆を進めた。



【北フランス・ドーヴィル到着後、はじめに描いた一枚 】

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