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(386)クジラ丼

 「太地に来たらクジラ丼を食べなきゃ」「森さんはクジラを保護する立場じゃなかったっけ?」「保護じゃなくて繁殖と言ってもらいたいね。それにもう肉になってんだから、おいしく残さず食べてやるのがクジラへの供養ってもんだよ」

 先週の本欄で太地から香川県の新屋島水族館へバンドウイルカを輸送したことを紹介したが、その打ち合わせに新屋島水族館のスタッフと何度か太地に足を運び、久しぶりに鯨肉を食べた。

 わたしの子どものころは、クジラの竜田揚げが給食の定番、遠足といえばクジラの大和煮の缶詰、おでんにはクジラのコロ(皮の脂肪を抜いて乾燥させたもの)が付きものだった。とにかく鯨肉はわれわれ庶民の味方だった。

 おまけにわたしが生まれ育った三重県四日市市に捕鯨の歴史がないにもかかわらず、諏訪神社の大祭に鯨舟という豪華絢爛(けんらん)なだんじりが出て、海の幸の象徴であるクジラは特に身近な存在だった。

 その後、勤務した水族館で小型歯鯨類の一種スナメリの出産やイロワケイルカの飼育に立ち会ったり、14年前から毎年小笠原のホエールウオッチングクルーズの講師を務めたりと、まあ普通の人よりははるかにクジラとかかわってきたから、そんなわたしがクジラ丼を食べようなんて言い出したのが奇異に思えたらしい。

 「このクジラ丼、おいしいですね。何クジラですか?」「ゴンドウだよ」

 記憶にあるなつかしい鯨肉の味が口の中に広がった。

 「高いお金を出してでもクジラを食べたいっていう人はいるんだから、鯨肉の料金に繁殖の研究に使うためのお金を上乗せして売るってのはどうかな。保護よりも積極的に殖やす研究にお金をつぎ込んだ方が良いと思うけど」

 クジラの問題はいろいろな思惑や主義主張が絡んでいるのでうかつなことは言えないが、少なくともわたしは正々堂々と言う。クジラはうまい。

(すさみ町立エビとカニの水族館長)

写真太地町で食べたクジラ丼

更新)