和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2019年06月25日(火)

「栗の花」

 「花栗(はなぐり)のちからかぎりに夜もにほふ」(飯田龍太)。雨にぬれたアジサイの花が美しいこの時季はまた、クリの花が咲く季節でもある。田辺の市街地でも、夜になるとどこからともなく濃厚なこの匂いが漂ってくる▼黄白色の長い花が咲き、この匂いが漂うたびに、子どもの頃の思い出がよみがえる。当時、わが家には雑木林を切り開いて造った20アールほどのクリ園があり、この季節になると、青臭い匂いが漂っていた▼この花の咲く時季は田植えの季節と重なり、農家は猫の手も借りたいほど忙しい。どの家の子も、小学校の5年生ぐらいになれば、農作業の手伝いをするのは当たり前と思われていたし、農耕用の牛を追うことぐらいはできた。苗代で苗を採って束ね、それを一輪車に積んで水を張った水田に運ぶのも子どもの仕事だった▼近所はどこも農家だったので、子どもたちは休日はもとより普段の日でも朝早く起き、学校に行く前の時間を手伝いに充てていた。誰が一番に田んぼに出るかと互いに張り合っていたことも懐かしい▼そういう仕事の中から農作業の手順を覚え、汗だくになって働く父母の尊さを知っていく。それが大人への階段を上ることにつながっていた。クリの花が咲き、アジサイの大輪が庭や公園を彩るこの季節になると思い出すことである▼時は移り時代は変わったが、日々、梅の収穫を手伝うこの地の子どもたちも同様だろう。(石)