和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2019年07月22日(月)

「恍惚の人」

 先週の本紙連載「認知症と生きる」で紹介された那須孝二さんの生き方に感銘を受けた▼那須さんがアルツハイマー型認知症と診断されたのは7年前。以後、てんかんの発作も経験しながら立ち直り、しっかり現実に向き合う。仕事も趣味も、人付き合いも立派にこなす▼認知症問題をいち早く取り上げた小説に、本県出身の作家、有吉佐和子の『恍惚(こうこつ)の人』(1972年刊)がある。頼山陽の『日本外史』の「老いて病み恍惚として人を識(し)らず」から取った。大ヒットし、映画化、テレビ化もされた。森繁久彌や三国連太郎の名演技を鮮明に記憶している▼それから半世紀。長寿化社会の不可避の側面として、認知症や運動障害を伴うパーキンソン病が珍しくなくなった。私の周辺でも非常に多く、両方を病む人もいる▼那須さんの場合、認知症を世間に隠さないことから始めた。性の多様性を明言することで偏見の除去が進んだように、本人がまずカミングアウト(公表)し、家族や世間がそれを温かく受け入れるのが成熟社会の必須条件だ。那須さんにはその勇気があり、家族も周辺も心から協力した▼私の場合、パーキンソン病の友人を自治会のマージャン会に誘ったら、生き返った。パイを積むのは不自由だが、点数計算は誰よりも早く、正確だ。より多くの人に「恍惚の人」ではなく、那須さんのように周囲を幸せにする光源になってほしい。(倫)