和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2019年08月25日(日)

「いさり火漁」

 梅雨の頃になるとイワシの干物を無性に食べたくなる。この季節にはイワシの漁獲が増えるので、出来たての干物が手に入りやすい。旬の魚だから味も良い。その昔、知人に教えてもらったこの言葉を体が覚えているようだ▼先日も、みなべ町内の国道沿いにある干物店で目刺しを買った。世間話のついでに近況を主人に尋ねたら、漁に出る人がめっきり減ったという。そのうち地元で原料を調達できなくなるのではとも心配していた▼イワシは定置網でも取るが、みなべ町や串本町では棒受け網漁(ボケ漁)が盛んだ。ライトで海面を照らし、集まったイワシを長い棒に取り付けた網で取る。大正時代から続く伝統漁法だ。そのいさり火が波間に揺れ、幻想的な光景を描き出す様子は夏の風物詩になっている▼ところがこの20、30年の間に漁獲は激減。みなべ町内の漁業関係者によると、魚価(市場値)も5分の1ほどに下がったという。漁業者の高齢化もあって出漁者も半数以下に減り、漁獲量も減少の一途という▼みなべ町ではかつて「棒受け網漁」の体験学習会を開催。毎年、多くの親子連れが参加していたが、いまは終了している。本紙にもこの7年間、いさり火漁の幻想的な写真は載っていない▼イワシの干物は手軽に味わえる地域の特産品。僕一人では「地産地消」ともいえないが、せめて伝統文化の伝承につながればと思って毎日、干物を食べている。 (沖)