和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2019年12月16日(月)

「ハスの情緒」

 長雨の合間を縫って、上富田町岡のハス池に大賀ハスを見に行った。南方熊楠とも縁の深い田中神社の隣接地にあり、地元の人たちが丹精込めて育てている▼以前は、開花期になると毎年のように出掛けていたが、ここ数年はなぜか足が遠のき、代わりに白浜町の富田や田辺市中辺路町のハス池に出向くことが多かった▼久々に出掛けて驚いた。コンクリート製の遊歩道が整備され、足元を気にせずに周囲を巡れるようになっていた。以前は少し元気がないように見えたハスも丁寧に管理されていた。肥料も適切に施してあるのだろう。葉は大人の背丈ほどにも茂り、花もまた美しく咲いている▼朝露をまとったつぼみには日の光が反射し、大きく開いた花にはハチが飛び交う。ピンクの大きな花やつぼみを見ただけで「今日も元気で頑張ろう」という気になる。花の写真を撮りに次々と人が訪れるのもうなずける▼しかし、永井荷風は明治末期の随筆「曇天」に「曇天の11月、不忍池一面に浮いている破れ蓮(はす)の眺望が、何ともいえず物哀れに、すなわち何ともいえず懐かしく、自分の目に映じた」と記している。真夏の光を浴びて咲く花ではなく、晩秋、すでに葉も枯れ、風に破られる姿に、物の哀れを感じたというのだ▼物の見方は人さまざま。花に魅せられる人もいれば、朽ちた葉に風情を感じる人もいる。それぞれの深さを味わう心を人は情緒と呼ぶのだろう。(石)