和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年04月25日(木)

元気だ!!万歳!!’21(1)/芝 安男〈しば やすお〉さん(100)/田辺市本宮町/皆地笠作り一筋

皆地笠を手に「この仕事のおかげで今まで生きてこられた」と話す
皆地笠を手に「この仕事のおかげで今まで生きてこられた」と話す
 田辺市本宮町に伝わる伝統工芸品「皆地笠(みなちがさ)」を作る職人。その技術の高さなどから、これまで黄綬褒章、県名匠表彰など数え切れないほど表彰されてきた。100歳になった今でも全国各地から注文が入る。「一枚でも多く作りたいと思うが、目、足が悪く、年には勝てない。気持ちはあるが、体がついてこない」と悔しがる。

 皆地笠はヒノキを中心に竹、桜の皮などを材料に作る。源平の戦に敗れ、この地に隠れ住んだ平家の公達が、日々の生計を支えるために編みだしたのが始まりと伝わる。熊野詣でをする庶民にも広く愛用されたことから「貴賤笠(きせんぼ)」とも呼ばれる。完成までに八つの工程があり、ベテランでも作れるのは1日2枚だという。

 皆地笠だけでなく、僧侶がかぶる「阿闍梨笠(あじゃりがさ)」や茶道具の花籠も作ってきた。本名は「安男」だが、職人としては「安雄」と名乗っている。その繊細な作品だけでなく、人柄に引かれた「芝ファン」が全国各地に存在、サインを求められることもある。

 この地で生まれ、育った。戦争で中国へ渡り、警備隊員として2年過ごした。輸送船に乗っていた兄は20歳で戦死した。

 戦後、地元に帰り、この仕事に就いた。酒、たばこ、賭け事は一切せず、70年余を仕事一筋で生きてきた。「したい昔話はたくさんあるが、できる人はもういない。同級生は90代まではいたけど、いまはみんな死んでしまった」とぽつり。

 「でも、この仕事に人生を懸けてきた。仕事ができるのが最高の幸せやね」
(滝谷亘)


 20日の「敬老の日」を前に、コロナ禍にあっても文化活動に取り組み、毎日を生き生きと過ごしている方々を紹介します。