和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2019年09月19日(木)

「うちわと扇風機」

 先週末、私的な勉強会のため、兵庫県西宮市の母校を訪ねた。折から前期試験の真っ最中。普段にも増してキャンパスには学生が多い▼その中に、電池で作動する携帯扇風機で顔や胸元に風を送りながら、急ぎ足で歩く学生を何人も見掛けた。男子だけではない。女子もまた胸元のボタンを一つ余分に外して風を入れている▼「それでなくても蒸し暑い時季。暑さ対策は欠かせないだろうが、ここまでやるか」といらぬことを考えながら通り過ぎたが、その帰り、電車に乗ってさらに驚いた。何人もの若い女性がつり革につかまりながら、同じような動作をしているではないか。たまたま一緒だった女子学生に聞くとこの夏、最先端のおしゃれだという▼夏といえば団扇(うちわ)と扇子。風呂上がりにはイベントで配られた安っぽい団扇で涼をとり、改まった場では30年以上も前、京都の老舗文具店で購入した「鳥獣戯画」の絵が描かれた扇子を後生大事に使っている小生には、驚くばかりの光景だった▼便利なものには反射的に手を出し、流行には競うように乗って仲間意識を育む世代と、30年も前のことがつい昨日のようによみがえってくる高齢者と。同じ時間と空間を共有していても、双方の世代の間には深い亀裂がある▼「絵団扇のそれも清十郎にお夏かな」(蕪村)なんていう、粋でおしゃれな江戸の風情はいま、はるか遠くまで吹き飛ばされてしまったようだ。(石)