和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2022年06月30日(木)

予約30年待ちの“幻のコロッケ” 未来の客に作り続ける店主「発送時には詐欺だと間違われることも…」

全国各地から予約が殺到しているコロッケ『極み』(画像提供:旭屋)
全国各地から予約が殺到しているコロッケ『極み』(画像提供:旭屋)
 大正15年創業の精肉店「旭屋」(兵庫県・高砂市)が提供しているコロッケ『極み』。これがなんと、“30年待ち”の人気を呼んでいる。5個入りで2700円と決して安くはないが、SNS上でも「9年前に頼んだ私のコロッケ、届いた」「去年頼んだ20年待ちコロッケ、だいたい1年たったからあと19年です 楽しみ」といったユーザーの声が度々バズるなど、全国各地で『極み』の到着を待ち望む声が後を絶たない。「発送時には注文を忘れている人が半数」と苦笑する店主の苦労と人気の秘訣を旭屋に聞いた。

【画像】肉汁じゅわっ?ほくほく? 1個540円のコロッケ『極み』の中身

■「誰がネットで神戸ビーフを買うねん」“呼び水”のはずが、予想に反して瞬く間に目玉商品に

 ネット販売限定の『極み』は、通販で肉が売れない時代の呼び水として、誕生した。

「知人からの勧めでネット通販を始めた1999年当時は、ネット詐欺が問題になっていた時期だったので、100g数千円もする神戸ビーフをネットで購入してもらうというのはハードルが高かったんですよね。そこで、手の出しやすい価格でお店のコンセプトが詰まった商品をつくって、次のお肉の注文に繋げたいという思いで『極み』が生まれました」(旭屋店主・新田滋さん/以下同)

 A5ランクの3歳雌牛のみを使用し、お肉の食感がはっきり伝わるよう、角切りでカット。じゃがいもは契約農家が無農薬で栽培する糖度の高いレッドアンデスを選んだ。全て手作りのため製造数は限られ、当初から現在まで、原材料費の肉だけで販売価格を上回る赤字商品だ。

「当初は『誰がネット通販で神戸ビーフを買うねん』と思っていたのですが、いざ始めてみると、鹿児島や北海道の離島などにお住みで、近場で神戸ビーフを買うことができない方々から『テレビでよく見る神戸ビーフを実際に食べてみたい』と多くのご注文いただきました」

■「作れば作るほど赤字」圧倒的需要が供給を上回るも、機械化しない“手作り”のこだわり

 当初の販売価格1個300円に対して、原材料費が牛肉だけで400円。当然、作れば作るほど赤字がかさむ。しかし、初めの半年は週に1度200個限定だったが、瞬く間に注文が殺到。製造数を1日200個に増やしても追いつかず、1年待ち、5年待ち、10年待ちに…。「さすがにこれ以上お待たせできない」と、2016年に一度注文を中断した。

「あまりにも長い時間お待たせしてしまうことに加えて、赤字幅が拡大する一方なので、一度新規注文を打ち切らせていただいたんです。しかし、商品が届いたお客様から『次を注文しようとしたら出来なくなっていた』『何年でも待つから注文させて欲しい』という声を想像以上に多く頂戴し、押されるように再スタートしました。今も『待ち時間がもうちょっと短くならないですか』というお声をいただきますが、一番多くクレームをいただいたのは注文を中止した時かもしれません」

 これまで何度も機械化を検討したが、今も1つ1つ手作りで、1日200個限定。どんなに需要が高まろうと、原材料費や人件費を削ることはない。その名の通り、肉の味わいを最大限に引き出す『極み』のコロッケであり続けることにこだわっている。

「様々な外注業者さんに同じ原材料でサンプルを作っていただいたのですが、やっぱり味が全然違うんですよね。ベテランの製造工場の方も『やっぱり手作りには敵いませんね』とおっしゃっていました。同業者でも、コロッケが売れるようになったからと製造を委託して味が落ちてしまった結果、倒産してしまったのを何軒も見ているので、今は自社で確実に作っていこうと思っています」

■タイムカプセルコロッケ?「30年後も一緒に食べようね」時を越えて届く人生の指標に

 長い年月を経て到着する『極み』。注文時と発送時では自身を取り巻く環境の変化が大きく変化している購入者も多い。

「商品発送前に確認のお電話を差し上げているのですが、半数近くの方が注文したことを忘れていますね(笑)。雑誌やテレビの取材を見て衝動買いされる方が多いので、覚えていない事が多いようです。ご説明すると大体の方が思い出してくださり、『やっと順番が回ってきたんですね』と喜んでいただけますが、ご家族の方が電話に出られた際には、『何年も前の注文の電話が来るわけないので結構です』と詐欺だと勘違いされてしまうこともあります(苦笑)」

 注文時に付けることができるメッセージカードには、『30年後は結婚して子どもがいるんかなぁ』『死んでいたらお墓に供えてください』等々、それぞれの未来へのメッセージが様々に綴られているという。

「他にもSNSで『届くまであと100ヵ月』などとカウントダウンしていらっしゃったり、『がんですが届くまで生きます』と特別な思いを込めてご注文くださる方もいらっしゃいます。ある会社から『社員のみんなで食べたい』と200個ご注文いただき、発送の際には倒産していたこともありました。発送時にご注文された方が亡くなられていて、ご家族の方が『せっかくだから頂いておきます』とお受け取りいただくこともあります。その他にも『家族みんなで食べようと頼んだのに、離婚して俺1人になった』という方もいれば、『結婚したときに頼んで、届いた時は子どもが生まれて3人で食べた』という方もいらっしゃったりと、本当に様々ですね」

■コスト倍増しても”価格据え置き”を貫く老舗としての気概「一人でも多くの人に神戸ビーフの魅力を伝えたい」

 海外からの人気の高まりを受け、神戸ビーフの値段はここ10年ほどで2倍近く上がっている。そんな中でも、新田さんは大正時代からの手作りスタイルを貫き、「『極み』は当初から変わらず、金儲けの商品ではない」と、採算度外視でコロッケを作り続ける。

「材料費の高騰に伴って商品も値上げしているんですけど、追いつかないくらい値上がり幅が大きい。600円超えたらコロッケとして成り立たないと思っているので500円で止めているんですけど、それを高いか安いかどう思われるかはお客さん次第です。現在は神戸店限定で40日間熟成させた神戸ビーフを使用した『神戸北野熟成プレミアム』という商品も店頭限定で販売しており、『極みよりこっちの方がはるかに美味い』というお声もいただいています。世界で一番有名な神戸ビーフを食べたことない方が日本国内にまだまだたくさんいらっしゃるので、これからもこれらの商品を通じて、一人でも多くの方に魅力を知っていただきたいと思っています」

 巷では“幻のコロッケ”と呼ばれているが、新田さんは「長らくお待たせしておりますが、お待ちいただければ、必ず届きますから幻ではないです」と笑う。――何年待ってでも食べたい。全国からその声が鳴り止まない驚異的人気の裏には、もうすぐ100周年を迎える『旭屋』の神戸ビーフに対する熱い思いがあった。


(文=鈴木ゆかり)

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