和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2020年07月07日(火)

熊野古道 息づく伝承を訪ねて(6)つぼ湯(田辺市本宮町湯峯)/小栗蘇生の温泉

小栗判官がつかってよみがえったと伝わる湯の峰温泉のつぼ湯。今では世界遺産の湯として人気だ
小栗判官がつかってよみがえったと伝わる湯の峰温泉のつぼ湯。今では世界遺産の湯として人気だ
つぼ湯地図
つぼ湯地図
 田辺市本宮温泉郷の一つ、湯の峰温泉は、世界遺産の「つぼ湯」があることで知られる。

 この温泉は、古くは熊野詣での人たちの湯ごり場であり、湯治場でもあった。浄瑠璃や歌舞伎の演目になった「小栗判官物語」の伝承の地でもある。

 その物語が「安珍・清姫伝説」と同様に、熊野が世に知られるきっかけにもなった。

 説教浄瑠璃「をぐり」によると、毒殺された常陸の国(茨城県)の小栗判官が餓鬼の姿で生き返った後、土車に乗せられて藤沢(神奈川県)から熊野まで運ばれ、温泉によって元の姿によみがえった。その際、身も心も支えたのが照手姫だった。

 この伝説は鎌倉時代に開かれた時宗の僧たちが、不思議な魅力を持つ熊野信仰を説法という形で世に広めるために創作したとされる。その後、さまざまな物語が誕生。小栗と照手姫のロマンスが人々の心を捉え、熊野への憧れが高まっていった。

 田辺市本宮町湯峯出身で伝説を研究する安井理夫さん(84)=田辺市東陽=は「小栗は社会的弱者の象徴。物語は『熊野の神は浄、不浄を問わず何人も受け入れる』ことを伝えている。湯峯ではそのことを古くから現実の生活の中で実践してきた」と語る。

 近くには、土車を埋めたという「車塚」、復活してから力を試したという「力石」、髪を結んだわらを捨てたところ自然に稲が生え、それからもみをまかなくても米が収穫できるという「まかずの稲」など、小栗判官にまつわる伝承がいくつも残されている。古道は歴史だけでなく、こうした伝承にも彩られ、奥深い魅力を形成している。
(山本敏弘)
=おわり