和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2019年12月16日(月)

混乱を極めた日本初価格変動型チケットによるフェス、問題点は?

ダイナミックプライシングにてチケット全席を販売する日本初の音楽イベントが初開催
ダイナミックプライシングにてチケット全席を販売する日本初の音楽イベントが初開催
 11月21日から24日に、ダイナミックプライシングにてチケット全席を販売する日本初の音楽イベント『Yahoo!チケット EXPERIENCE VOL.1』が初開催された。新たなチケット販売手法に踏み切きり、業界内外から耳目を集めた同イベントであったが、チケット販売のわかりにくさ、開催直前のチケット価格の極端な下落、席種の突然の変更など、現場は混乱を極める結果となった。徐々に実施事例が増えてきている“ダイナミックプライシング”に焦点を絞り、改めて検証する。

【写真】ももいろクローバーZなど『Yahoo!チケット EXPERIENCE VOL.1』主な出演者

■需要に応じて価格が変動、一部ユーザーからは不満の声も

 ダイナミックプライシングは、商品、市況、天候、個人の嗜好などに関するビッグデータをクラウド上のプラットフォームで迅速に分析し、需要の予測を基に価格の上げ下げを自動的に行うことで顧客のニーズに即応し、併せて収益向上に役立てるというもの。すでにホテルや航空会社などで利用されており、繁忙期などで通常より高額の宿泊費や航空券の購入をした経験のある人も多いのではないだろうか。

 こうした価格変動制チケットについては、海外ではスポーツイベントのチケットなどにも活用されており、国内でもプロ野球などでスタートしているが、音楽ジャンルでの導入は今まさにスタートしたところと言える。

 この分野にいち早く取り組んでいたのが三井物産とヤフーで、昨年6月にダイナミックプライシング事業を行う新会社「ダイナミックプラス株式会社」を設立。ぴあも参画し、同事業を本格的にスタートさせた。先の『EXPERIENCE VOL.1』も、このダイナミックプラス社が参画し、同社のAI技術を活用。需要と供給に応じてリアルタイムに価格を変動させ、チケットを販売した。

■問題点はどこにあったのか?

 電子チケット発券とマーケティング支援サービスを提供する総合エンターテック企業のplayground株式会社の代表取締役 伊藤圭史氏は今回のイベントの問題点として、(1)座席構造が販売時と違う、(2)販売当初より値下げして売られている、の2点を挙げる。

「(1)座席構造が販売時と違う、という点では、消費者の目線に立ってあえて厳しい表現をするならば、これは契約違反と言われかねない、今回の件で最大の問題だと思います。演者との距離やメンバーの立ち位置を想定して本当に欲しい席を座席指定で高額購入したファンが少なからずいるなかで、「約束と違う。この場所ならこの金額は払わなかった」と追及されたら弁明は難しいと思います。ダイナミックプライシングでは従来よりも、より具体的かつシビアな「値踏み」が行われる以上、興行側も約束したことを守る意識がより一層重要になってくるでしょう」(伊藤氏)

 さらに続けて「(2)販売当初より値下げして売られている」については、「ダイナミックプライシングを導入する以上、多少は致し方ないこと」としつつも、伊藤氏は以下のように解説する。

「パイロットという位置付け上、仕方なかったことだと思いますが、期待値が不安定になりがちな初回イベントで採用したことが悪い方に出てしまいました。この状況で全面的にダイナミックプライシングを入れてしまうと、後半になるにつれて値下げする現象は避けられないのではないか、と思います。例えば前方席だけ高額にして、その他の席は固定金額とするなど、各イベントに合わせた運用方法の見直しが必要かと思います」(伊藤氏)

 これについてはある音楽業界関係者も、「ファンと会場キャパシティの“需要と供給”のバランスを最適化して、収益を最大化する方法としては有効」と期待を寄せる一方で、「日本ではライブの“SOLD OUT”が大きなブランド価値になっていたり、パフォーマンスするアーティストへの配慮から、『席を埋める』というベクトルに傾きがちです。それは非常に大事ですが、ダイナミックプライシングを活用する点においては踏まえるべきポイントでしょう」と指摘する。

■「チケット価格は演出の一部である」という意識を持って検討すべき

 ニーズに応じて価格が変動するダイナミックプライシングにおいては、人気の薄い席種のチケットの価格が、人気席種より下がるのは当然の結果。実際、SNSでは、運営側を非難する声に混じり、実際に会場を訪れたチケット購入者からは「ライブ自体はとても満足」「これも勉強代」と、受け入れるコメントも見られてはいた。

 今回のイベントについても、伊藤氏の指摘する席種変更に関する問題はあったものの、ダイナミックプライシングの運用という意味では、決して失敗とは言いきれず、ある種、経済原則に則った結果と言える部分もあるということだろうか。これについて、伊藤氏は、以下のように分析する。

「課題が残る結果となったのは確かでしょう。但し、ここでいう「課題」とは「価格が下がったことで収益が損なわれた」という経済的観点ではなく、「観客を興ざめさせてしまったこと」です。社会学者の小川博司氏が『(観客は)ノッてから立つのではなく、ノルために立つのである』と指摘したように、ライブの盛り上がりに対して、「観客の姿勢」は大きな影響を与えます。『3万円の高額ライブ』と『3000円に下がったライブ』では来場したときの観客の姿勢は全く異なるものになってしまう以上、興行主は我々システム屋の言葉や海外事例を鵜呑みにせず、いまいちど『チケット価格は演出の一部である』という意識を持ってダイナミックプライシングの適用方法を考える必要があると思います」(伊藤氏)

■音楽ライブには「1つとして同じライブはない」

 では、実際のところ今後もダイナミックプライシングを活用していくためのカギはどこにあるのだろうか。伊藤氏は続けて以下のように解説する。

「一言でいうと「相性の見極め」です。ダイナミックプライシング、特にAIを使った場合は「データが命」です。どんなに優れている最新鋭のアルゴリズムやAIを採用してもデータが足りなければ効果は出ません。『(1)同一条件のなかで、(2)繰り返し、(3)高頻度で行われる』という3要素が揃ったときに最も効果を発揮します。交通系、宿泊施設が先行して利用しているのはこの条件を満たしているが故です。興行チケットで言えば固定の球場・座席図で行われるプロ野球やJリーグは比較的相性がよいので世間からの不満や幾度かの失敗を経るとは思いますが、今後活用が進んでいくことは間違いないでしょう」

 今回は課題が残る結果となったとして、上記3要素を音楽イベントがクリアできるとしたら今後の活用の可能性はあると言えるのだろうか。

「正直申し上げて現状で言えば音楽ライブはチケットの中でも最も相性が悪い1つと評価せざるを得ません。音楽ライブは『1つとして同じライブはない』と言っていいほど細かい条件で変化し、また、公演回数も年10数回程度と、ほぼ同一条件のなかで1社あたり年間数千万席を販売している飛行機会社とでは導入難易度に雲泥の差があります。この分野の技術発展は著しいのでこの課題を乗り越えるAIが生まれる可能性もありますが、少なくとも今の時点では運用方法や適用範囲を見定める必要があります。収益性向上という点においては、ダイナミックプライシングは欠かせない手段であり、拡がっていかない手はないと思います。ただし、『チケット価格は演出の一部である』という点を踏まえると使い方は厳しく見定める必要があります。今回の件は誰もが躊躇することに挑戦をしたという意味で極めて重要な一歩であり、これが普及に向けたブレーキではなく、前に進めるための良い教訓として活用されることを切に願います」(伊藤氏)

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提供:oricon news