和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2019年06月16日(日)

熊野古道の保全 地域を挙げて見守りを

 熊野古道を歩いていた外国人観光客が、田辺市本宮町の古道沿いの崖から転落して死亡した。県教委によると、2004年7月に熊野古道が世界遺産に登録されて以降、古道歩きでの死亡事故は聞いたことがないという。

 熊野古道は海外からも多くの観光客が訪れる観光地である。事故を受け、市は県や田辺署など関係機関と危険箇所の点検を始めた。今回の悲劇を教訓に、安全性を再検証してもらいたい。

 古道は自然道であり、台風や大雨のたびに土砂が流出する。道沿いには人工林が多く、中には手入れが行き届いていない箇所もある。安全を確保するためには、定期的な整備が欠かせない。

 熊野古道中辺路の中心部がある田辺市は、世界遺産登録後、森林組合に委託して毎月、古道のパトロールをしている。崩れている箇所は修繕し、倒木があればすぐに撤去してきた。

 17年には古道沿いの環境保全を目的に「熊野古道の森を守り育む未来基金(通称くまもり募金)」を設置。これまで3千万円以上の寄付が集まっている。森林の購入や適正な維持管理(間伐や枝打ち)に活用したいという。

 県世界遺産センターが企業や各種団体に呼び掛けて古道を保全するボランティア活動には、07年度から18年度末までに延べ2万476人が参加している。

 古道は熊野三山への参詣道であり、地域の人々が利用する暮らしの道。古くから山仕事や古道沿いにあるお地蔵さんや神社にお参りする人々が足しげく通うことで、古道の異変に目が届き、結果的に保全が図られてきた。

 現状はどうだろうか。観光客は増えているが、過疎化で地元の人々が足を運ぶ機会は減っている。その結果、地域の暮らしと距離が開き、保全のための情報を入手する機会も少なくなっている。

 まずは林業や農業など周辺の産業を活性化させ、古道と人々の距離を縮めることだ。その上で、地元の市や町、企業や学校を挙げて古道を歩く機会を増やす方策を考えてはどうか。

 田辺市は10~17年に新規採用職員の研修の一つに取り入れていたが、いまは中断している。実務研修優先のためというが、地元の宝に触れる機会もなくて、どうしてその宝が磨けるのだろう。

 古道には、道幅の狭い箇所も、石や木の根っこに足を取られやすい箇所もある。崖に面した場所もあれば、急な坂道もある。携帯電話の電波が届かない山中もあるし、次の休憩所まで距離がある区間もある。

 まずはその実情を地元の人たちに知ってもらいたい。そのためには古道を歩くこと。中辺路ルートで言えば、滝尻王子から高原熊野神社、あるいは発心門王子から熊野本宮大社へのコースを歩いてみよう。ツアーに参加したり、語り部と歩いたりするのもいい。

 地域の目をより多く入れることが保全策につながり、一番の安全対策となるのだ。 (K)