和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

固有種のクマノザクラ 地域の宝を磨こう

 「この木もクマノザクラではないか」――。早咲きのサクラを見つけた人から、こんな声がごく自然に聞かれるようになった。

 クマノザクラは和歌山、三重、奈良3県にまたがる紀伊半島南部の固有種。2018年に国内の野生のサクラとしては約100年ぶりに発見された新種である。

 ソメイヨシノより開花が早く、開花時に葉は伸びない。花は白~淡紅色で美しい。1本ずつ花の形や大きさ、色の濃さが異なり、個性的なところも魅力とされる。

 長い間、早咲きのヤマザクラだと思われてきた。新種と分かってから3年がたち、身近な木々が次々とクマノザクラだと判明。地域の人たちが昔からめでてきたサクラが改めて見直されている。

 例えば、古座川町峯の過疎集落にある一本桜。地元では「薬師さんの桜」と親しまれてきた。それがクマノザクラと判明。各地の人が開花を待ちわび、県外からの来訪も見られるようになった。

 本紙にも3月上旬から串本町田並、田辺市の龍神村や中辺路町水上、大塔地域、みなべ町清川など各地で「名木」の開花を伝える記事が掲載された。「四季彩々」欄でも欠かせない被写体となり、住民の関心の高さをうかがわせる。

 まさに紀伊半島の豊かな自然が育んできた地域の宝である。

 こうした宝を学習や観光に役立てる活動も始まった。古座川町の高池小学校では、児童が花見に訪れた人に特徴を説明するガイド役を務めた。町の観光協会は名木を巡るウオークイベントを始めた。

 田辺市と森林総合研究所多摩森林科学園(東京都八王子市)、和歌山県林業試験場は昨年、田辺市たきない町の新庄総合公園と同市本宮町三越の熊野古道沿いに約80本を植えた。早ければ来年にも花をつけるそうだ。より身近な所で観賞できるようになる。

 県境を越えた活動で観光と文化の振興に寄与しようと、3県の専門家らが参画する「日本クマノザクラの会」も、この2月に発足した。各地のクマノザクラを持続的に活用できるよう情報を収集・発信し、住民への啓発も進める。保全と植栽計画の立案や提案、調査研究も進めるという。

 この3年間の観察で分かってきたことがある。一つは明るい林縁ややぶを好む若木が少ないことだ。シカによる食害があり、手入れができていない森林の増加も影響している。植樹などでオオシマザクラやソメイヨシノなどの「外来種」が入ってくると、交配を繰り返してクマノザクラの存在が脅かされると心配もされている。

 クマノザクラの会も「潮岬などではオオシマザクラによるクマノザクラの集団消失が疑われる。人が管理できる公園などを除き、自然林では外来種問題を含めた保全対策が求められる」とする。

 熊野古道やジオサイトなど、あちこち寄り道しながら固有の花を楽しめる喜び。保全と利用に工夫を凝らし、紀伊半島の自然の豊かさをより多くの人が味わえるようにしたい。 (O)

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