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熊野古道 息づく伝承を訪ねて(2)和泉式部供養塔(田辺市本宮町伏拝)/熊野の懐の深さ象徴

和泉式部の供養塔。地元では女性の病気に御利益があるとも伝わる(田辺市本宮町伏拝で)
和泉式部の供養塔。地元では女性の病気に御利益があるとも伝わる(田辺市本宮町伏拝で)
 田辺市本宮町のなだらかな茶畑が広がる丘陵地。その一段高い所に、伏拝王子がある。王子跡の石祠(せきし)の隣、宝篋印塔の塔身とふたを積み上げた石碑があり、それが平安中期の歌人・和泉式部の供養塔だ。

 伏拝王子は熊野古道中辺路の終着点とされる熊野本宮大社まで歩いて1時間ほどの距離。旧社地の大斎原(おおゆのはら)を遠望できることから参詣者が「伏して拝んだ」という場所だ。取材した日は雨で、霧が山を包み込む幻想的な光景が広がっていた。

 式部は熊野詣ででこの地を訪れた際、にわかに生理となった。当時、女性の生理は不浄なものとされており、これでは本宮参拝は無理と、ゴールを目前に諦めかけた。

 その時詠んだとされる歌が「晴れやらぬ身のうき雲のたなびきて月のさわりとなるぞかなしき」。すると、その夜、夢に熊野権現が現れて「もとよりも塵(ちり)にまじはる神ならば月のさわりもなにかくるしき」と告げたので、そのまま参拝できたと伝わる。

 平安中期に編さんされた法令集「延喜式」には、死や出産、月経は国家的に不浄なものとされ謹慎が求められた。案内してくれた熊野本宮語り部の会の藪中まりさんは「熊野はそんなこと気にしないから来なさいという、熊野の懐の深さを象徴するエピソードです」と話す。

 生理がタブー視された社会は、少しずつ変わろうとしている。藪中さんは「現代にも通じる話で、語り部をしていても反応が良い。伝承をきっかけに熊野に興味を持つ人が増えてくればうれしい」と期待する。

 王子近くには茶屋があり、休憩に最適。茶屋を運営する地元婦人会のメンバーと古道トークも楽しめる。 (喜田義人)

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