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「皆地笠」に後継者、103歳職人「ほっと」 芝さんに師事し20年腕磨く、和歌山・田辺市本宮町

皆地笠の制作技術を受け継いだ梅崎健一さんと妻・奈美江さん(和歌山県田辺市本宮町で)
皆地笠の制作技術を受け継いだ梅崎健一さんと妻・奈美江さん(和歌山県田辺市本宮町で)
芝安男さん
芝安男さん
 和歌山県田辺市本宮町皆地の芝安男さん(103)が長年一人で守り続けてきた伝統工芸品「皆地笠(みなちがさ)」作りに、後継者ができた。20年ほど前から芝さんに師事し、仕事の傍ら腕を磨いてきた梅崎健一さん(65)=本宮町土河屋。体力の衰えから制作できなくなった芝さんに代わって少しずつ販売を始めており、芝さんも「ほっとした」と喜んでいる。

 皆地地区で作られてきた皆地笠は、薄く加工したヒノキを手作業で編み上げる。戦前には8軒ほどの工房があったが、戦後、生活様式の変化などから従事者が減少。昭和30年代後半には、芝さんだけになっていた。

 福岡県出身の梅崎さんは1999年、大阪府出身の妻・奈美江さん(49)とともに本宮町に移住。地元の森林組合で伐採や造林などの仕事に携わる中、2003年春に「物作りが好きだし、副業にもなれば」との思いで芝さんの工房を訪ねた。

 その後、見よう見まねで笠を編んで芝さんに見てもらったり、貸してもらった道具を鍛冶屋に作ってもらったりしながら、休日などを利用して、こつこつと「修業」を重ねた。

 一方、芝さんは100歳を超えても「体の続く限りは」と皆地笠作りに取り組んでいたが、その後、体力の衰えから制作を断念した。そんな中、梅崎さんが昨年5月に定年を迎えたことをきっかけに、皆地笠作りに本腰を入れることを決意。芝さんも梅崎さんが作った笠を認め、県知事指定の郷土伝統工芸品でもある皆地笠の制作を受け継ぐことになったという。

 梅崎さんは昨年から、芝さんに依頼が寄せられていたものや熊野本宮語り部の会のメンバーである奈美江さんが語り部仲間から頼まれたものなどを制作し、これまでに20個ほど販売。「編むのはもちろんだが、材料を自分でそろえて加工するのが大変。芝さんの名に恥じないよう完成度を上げていきたいし、この伝統を自分だけで終わらせず、未来につなげていきたい」と話し、奈美江さんも「私もサポートし、皆さんに喜んでいただけるよう頑張りたい」と意気込んでいる。

 梅崎さんは今も臨時で森林組合の仕事を続けているが、3月いっぱいで区切りをつけ、4月からは皆地笠作りに本格的に取り組む予定という。

 唯一の継承者として皆地笠の伝統技法を守ってきた芝さんは「やめるのはつらかったが、年にはかなわない。和歌山の伝統が途切れてしまうので、後を継いでくれる人ができて良かった。梅崎さんは、だいぶきれいな仕事ができてきている」とエールを送っている。

 皆地笠は一つ8千円で販売。すでに30個ほどの予約が入り、完成を待ってもらっている状態という。

■皆地笠

 平安末期から熊野詣での際に愛用されてきたとされ、通気性が良くて蒸れにくい上、ヒノキに含まれる油分が雨もはじく。上皇から貴族、庶民まで身分に関係なく愛用されたことから、もともとは「貴賤笠(きせんぼ)」とも呼ばれていたが、いつしか産地名で知られるようになった。

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