和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年10月05日(土)

この人/県の名匠/堀池 雅夫さん(71)/紀州松煙墨を復活

ほりいけ・まさお=田辺市文里1丁目在住。自身でも松煙墨や彩煙墨を使って絵を描き、毎年個展を開いている
ほりいけ・まさお=田辺市文里1丁目在住。自身でも松煙墨や彩煙墨を使って絵を描き、毎年個展を開いている
 田辺市鮎川に工房「紀州松煙」を構える。墨製作に取り組んで30年以上。途絶えていた紀州松煙墨(しょうえんぼく)の製作を復活させ、鮮やかな色を付けた墨「彩煙墨(さいえんぼく)」を創案した。これらの功績から、本年度の県名匠表彰に選ばれた。

 静岡県出身。35歳の時に田辺市に移住し、妻の実家のすすの製造業を継いだ。知人に懇願されて松のすす(松煙)と膠(にかわ)を合わせて作る墨「松煙墨」の製造も始めた。

 県内の山村ではかつて松煙の製造が盛んだったが、昭和30年代に仕事の過酷さや松材の減少、鉱油墨の普及によって途絶えていた。

 松煙は元来、障子で囲った小部屋に焚き窯を設置し、松材を燃やして障子にすすを付着させて採取する。障子の代わりに金網を使う以外は、自ら調べて復元した伝統的なすすの取り方で紀州松煙墨の製作を復活させた。

 すすの製造から松煙墨の製造まで一貫して行う職人は全国で堀池さんのみ。「元々すすの製造をしていたので松煙墨を作る技術はあったが、売れる物にすることや売れるルートをつくることが大変だった」

 雑誌の通販広告や百貨店での伝統展などで知名度を上げていった。さらに顔料を加えて色彩を付けた「彩煙墨」を創案し、色彩はいま40色ある。インターネット通販もしており、全国に愛用者がいる。

 現在は、ウェブ会議システムで松煙墨、彩煙墨を使った絵画講習会も開いている。参加者には海外在住の人もいるという。

 最近になり、松煙墨の製造が断絶される前のものと思われるすすの俵が市内で発見された。「このすすを使って墨を作りたいと思っている。ウェブ会議を使って紀州の墨の良さも広め続けたい」
(安井夕記)
=随時掲載