和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2020年07月11日(土)

基礎研究の小径から/-86-/知的財産と市民生活/経済法後藤多栄子/(1)

 今回から4回にわたり、知的財産についてのお話をしたいと思います。13回にわたってお話をしました独占禁止法は、知的財産と密接に関連している法体系です。今回からのタイトルを「知的財産と市民生活」としました。知的財産と聞くと何を思い浮かべますか。実はわたしたちの生活の中に数多くの知的財産が存在しています。身の回りを眺めてみてください。クーラー、テレビ、パソコン、スマホ、炊飯器、冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、オーブン、インターホン、防犯カメラ、コピー機、湯沸かしポット、車、自転車などの生活用品の中には多くの知的財産が存在しています。

 自転車を例にとってみましょう。信号照明、制動、操行、推進、変速、駐輪、安全、運搬、盗難防止など、装置部位だけでもいろいろ種類があります。ほかにもフレーム構造や車輪や座席などの部位を含めると、特許と実用新案の出願件数は2万2千件にも及びます。知的財産には種類が複数あり、特許、実用新案はすでに耳にされた方も多いと思います。

 特許とは何でしょう。特許法という法律があります。特許権という権利もあります。特許になる前の形は「発明」というアイデアなのです。このアイデアが具現化したもの、権利化したものが「特許」なのです。

 特許となるべき「発明」の定義(特許法2条)は、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」となっています。自然法則といえば、物理ででてきた法則がいろいろあった気がしますね。ニュートンはリンゴが木から下に落ちるのを見て、万有引力の法則を見つけました。この万有引力の法則は自然法則にあたります。注意すべきは「利用した」とある部分です。万有引力の法則自体は発明になりませんが、その法則を使って装置を作ると発明になり、特許化できるようになります。

 つぎに「技術的思想」ですが、「技術」は一定の目的を達成するための具体的手段であって、実際に利用でき、知識として伝達できるものである必要があります。つまり、世界のICHIROの打法は彼独自の打法で、熟練によって成立している技能でありますが、特許法上の技術とはならないのです。

 さて、「創作」ですが、新しいことを創り出すこと、自明でないことを指します。レントゲンがエックス線を発見しました。ベンゼン環の構造をケクレが解明しました。どちらも素晴らしい発見です。しかし、新しいことを創りだしたわけではありません。アメリカ大陸を発見したコロンブスも同様です。エックス線もベンゼン環もアメリカ大陸も発見される以前から存在していたからです。「発明」のイメージが膨らんできたでしょうか。「高度なもの」については、次回で説明します。ご期待を!