和歌山県南紀のニュース/AGARA 紀伊民報

2024年12月12日(木)

主要駅でウバメガシの苗育てる 山に植樹「戻り苗プロジェクト」、JR西と田辺の林業ベンチャー

紀伊田辺駅など県内主要駅に設置するウバメガシの「戻り苗」(右奥)を紹介するソマノベースの奥川季花社長(左)とJR西日本和歌山支社の御堂直樹課長=25日、和歌山県庁で
紀伊田辺駅など県内主要駅に設置するウバメガシの「戻り苗」(右奥)を紹介するソマノベースの奥川季花社長(左)とJR西日本和歌山支社の御堂直樹課長=25日、和歌山県庁で
 JR西日本和歌山支社と和歌山県田辺市新屋敷町の林業ベンチャー「ソマノベース」はこのほど、紀勢線の県内主要駅でウバメガシの苗木を育て、田辺市内の山に植樹する「戻り苗プロジェクト」を始めると発表した。温室効果ガスの吸収量増や紀州備長炭の原木確保、土砂災害防止が目的という。


 JR西日本は2050年に温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させる「ゼロカーボン」の実現を目指している。この取り組みはその一環。

 「ソマノベース」がドングリから発芽させたウバメガシの苗木を紀伊田辺や白浜、串本、紀伊勝浦、新宮など県内の主要8駅と和歌山支社に48本ずつ計432本設置。2年育てて植樹する。当面は駅員が水やりなどをするが、今後、駅利用者に関わってもらう仕組みも検討している。ウバメガシを選んだのは、紀州備長炭の原木が減少している課題があるためという。

 「ソマノベース」は個人や企業に、苗木を育てる体験を提供している。那智勝浦町出身の奥川季花社長が、高校1年の時に紀伊半島大水害で被災し、友人を亡くした経験から、土砂災害リスクの少ない山林づくりを目指し、21年に起業した。

 プロジェクトは県内主要駅で開始し、来年以降は京都や新大阪、大阪、天王寺など京阪神、その後他のJR西日本管内の駅にも広げたいという。

 また、駅周辺にJR西日本が所有する未利用地にも育てた苗木を植え、地域の人が集まれる場所をつくったり、県外の学校に苗木を育ててもらい、紀勢線の特急に乗って植樹体験に行ってもらう教育旅行を企画したりする構想もあるという。

 JR西日本和歌山支社地域共生室の御堂直樹担当課長は記者会見で「脱炭素やカーボンニュートラルは大きな課題。一過性にはせず、この先、取り組みを広げていきたい」。奥川社長は「多くの人が利用される駅で苗木を育てることで、防災や森林に目を向けてくれる人が増えるだろう。西日本の沿線にこのモデルが広がれば、災害時に貢献することもできる」と期待を寄せた。